どこかにあるはず

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滅びゆく世界で、しぶとく生きる人たちの映画

 

ニーチェの馬 (字幕版)

ニーチェの馬 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 


 とんでもない映画を見た。
 
 時間は二時間半。楽しいことは何一つ起こら
ない。見ていて不安とストレスがどんどん
ふくれあがってゆく。

 しかし、なぜか最後まで目がはなせない映画だ。
 
 題名は「ニーチェの馬」という。
 2011年のハンガリー映画。全編はモノクロ
で撮影されている。

 

 哲学者ニーチェの体験からイメージを得て
作った映画だという。

 監督はタル・ベーラハンガリーでは巨匠と
呼ばれている映画監督のようだ。

 時代はたぶん、二十世紀より前? 国はたぶん、
ハンガリーの田舎? 
 まったく説明がない。そのへんは勝手に想像
するしかないらしい。

 主な登場人物は片腕が不自由な老人。それを
世話をする娘。
 あと、二人が飼っている馬だけ。

 脇役が少しだけ登場するが、ほとんど出番が

ない。
 出番があっても、すぐに去ってゆく。

 老人と娘は町はずれにある粗末な家で二人
暮らしをしている。

 朝起きて着替えて、井戸の水くむ。
 かまどの火を起こして、じゃがいもを食べる。

 

 外に出て馬に荷台をつないで走らせようと
する。そして、夜になって着替えて寝る。

 この映画では、老人と娘の面白みのない
単調な日常生活がひたすらつづく。
 しかも、二人にほとんどセリフがない。

 

「朝だから起きて」
「ごはんだよ」
「着替えを手伝って」

 

 ……ぐらいなもの。老人も娘も疲れたような
無表情。世間話もせず、笑顔も見せない。

 

 かわりに風の音が強い。家の外では暴風が吹いて
いる。
 暴風は何日たっても終わりがない。
 朝から夜まで、ひたすら暴風は吹き続ける。
 
 しばらくすると、異常気象というレベルを
こえていることに気づく。
 何らかの形で世界の終わりが来ている……のだ。

 

 世界の終わりの原因は不明。世界の終わりを
止めるヒーローもいない。

 二人は外界の人間とのつながりはなく、
完全に孤独だ。

 

 こんな生活はいやだ。こんな人生はいやだ。
こんな毎日がつづくなら、なんのために
生きているか分からない。
 
 見ていて何度もそう思った。
 だが、老人と娘は何も文句を言わない。

 

 不幸な人生でも、何も未来に希望がなくても
不平不満をもらさず、しぶとく生きようとして
いるのだ。

 

 監督はインタビューで語っていた。

 

「世界の終わりは静かにやってくる。死に近い
沈黙。孤独なまま終わる」

 

 まさに、そんな感じがする映画だった。
 世界の終わりが来た時。人はどうやって
生きるのか? 
 
 その一つの回答がこの映画かもしれない。
 
 暗く重い映画で時間も長い。
 見ていて楽しい映画ではない。

 

 それでも、きびしい現実世界を生きるため
に必要なものを教えてくれる映画だった。